2024年6月、東京・北青山で開かれたファッションショーで、采礼は3Dプリンターで造形した衣装のコレクション「SAAYA2024」を発表しました。ショーのあとには、会場で衣装の展示も行われました。
テーマはグリッチ。服を作る前に形を確かめるためのソフトの中で起きる、計算の破綻です。本来は消されてしまうその形を、3Dプリンターで実物にしました。
01グリッチとは
グリッチは、コンピューターや電子機器で一時的に起きる小さな不具合のことです。ゲームのキャラクターが壁にめり込んだり、手足が不自然に伸びたりする現象がよく知られています。
システムそのものを壊してしまう深刻なバグとは違い、グリッチは一瞬だけ現れて、消えていきます。
02服のシミュレーションで起きるグリッチ
アパレルの現場では、服を実際に縫う前に、CLO などの3DCGソフトで型紙を仮想の体に着せて、布の落ち方やシルエットを確かめます。
ソフトは、布の重さや張り、体とのぶつかり方を計算して形を出します。ところが計算がうまくいかないと、布が体を突き抜けたり、アバターの首や腕が引き伸ばされたりします。
ふつうは、やり直して消してしまう形です。
03布のための計算が生んだ、布では作れない形
采礼は、このグリッチをデザインの出発点にしました。
面白いのは、布の動きを再現するためのソフトが生んだ形なのに、その形は布では作れないことです。布は自分の重さで垂れるので、グリッチが見せる不自然な張りやふくらみを保てません。
そこで素材を布から樹脂に替え、3Dプリンターで造形しました。デジタルの中で一瞬だけ現れた形を、そのまま物として固定する。それがこのコレクションの考え方です。
04硬さを、素材で使い分ける
服は、形を見せる部分と、体の動きについていく部分でできています。そこで、2種類の樹脂を使い分けました。
- ポリスチレン(硬い):ボリュームのあるティアードスカートに。形を保ったまま立ち上がる
- エラストマー(ゴムのように曲がる):Tシャツ、ニット、パンツに。着たときに体に沿って曲がる
素材が変われば、造形の条件も変わります。ノズルの太さ、樹脂を溶かす温度、造形する台と空間の温度まで、素材ごとに設定しています。
| ポリスチレン | エラストマー | |
| 使った衣装 | ティアードスカート | Tシャツ・ニット・パンツ |
| ノズル径 | Φ3mm | Φ2mm |
| 樹脂を溶かす温度 | 180〜210℃ | 160〜190℃ |
| 造形台の温度 | 70℃ | 60℃ |
| 造形空間の温度 | 90℃ | 加温なし |
05大きな服を、分けて造形してつなぐ
ティアードスカートは、いちばん長い辺が約1.2m。4段に分けて造形し、合計17時間21分かかりました。黄色のニットは、胴・左右の袖・左右の袖口の5つに分けて、合計25時間17分です。
分けたパーツをどうつなぐかも、造形の前に決めておきます。設計シートには、結束バンドを通す穴の位置、Φ3mm の紐通し穴、パーツ同士を結ぶ編み糸の種類まで書き込んでいます。Tシャツは、分けた位置を内側から綿の糸で縫い合わせています。
06重力も、形の一部にする
青のパンツの設計シートには、「造形中に重力で落ちる」と書き込んだ部分があります。
3Dプリンターは、溶かした樹脂を下から積み重ねて形を作ります。下に支えのない場所では、押し出した樹脂が重力で垂れ下がります。ふつうの3Dプリントでは、これは失敗です。
このパンツでは、その垂れ下がりを最初から見込んで、形の一部にしています。ソフトの中で起きるグリッチと同じように、造形中に起きる「思い通りにならない現象」まで、設計に組み込むという考え方です。
07造形データ
| 衣装 | 素材 | 造形時間 |
|---|---|---|
| ティアードスカート(ピンク) | ポリスチレン | 17時間21分(4段) |
| Tシャツ(ピンク) | エラストマー | 6時間5分 |
| ニット(黄色) | エラストマー | 25時間17分(5パーツ) |
| Tシャツ(青) | エラストマー | 14時間8分 |
| パンツ(青) | エラストマー | 6時間21分 |
08衣装・ファッションの造形をご相談ください
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